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宮崎地方裁判所都城支部 昭和44年(ワ)68号 判決 1970年9月28日

原告

岸良和子

被告

中西静夫

主文

(一)  被告は原告に対し金一一九万二三六九円およびこれに対する昭和四四年六月四日以降右支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  原告その余の請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は四分し、その一を被告、その余を原告の負担とする。

(四)  この判決は、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

一、請求の趣旨

(一)  被告は、原告に対し金三八七万八六六七円及び昭和四四年六月四日以降支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

二、請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、請求原因

一、事故の発生

訴外中原正廣は、被告に雇傭され、自動車運転の業務に従事していたものであるが、昭和四二年一一月一八日午後五時四〇分ごろ、被告所有の軽四輪貨物自動車(6宮崎に七二六)を運転して、都城市松之元方面から志和池方面に向けて進行し、都城市上水流町一六五四番地先の交差点にさしかかつたところ、右交差点は、交通整理の行われていない交差点であり、当時右方道路から進行してきた原告の運転する原動機付自転車がすでに同交差点に進行していたのであるから、このような場合には、同じ交差点に入ろうとする自動車運転者としては、一時停車又は徐行して先入車両を進行させなければならない注意義務があるにもかかわらず(道路交通法三五条一項)、これを怠り、一時停車又は減速することなく漫然進行したため、偶々右方道路から進行してきた右原告の運転する原動機付自転車に自車を衝突させ、その結果原告に対し入院加療四〇三日を要する左下腿粉砕開放骨折、左腓骨神経痳痺及び外傷性頚性頭痛症候群、頭部外傷後脳症等の後遺症を伴う重傷を負わせるに至つた。

二、被告の責任

被告は、その保有にかかる右中原の運転する前記自動車を自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、右原告の傷害につき損害を賠償すべき義務があり、又物損については民法七一五条によりその損害を賠償すべき義務がある。

三、原告の病状と苦痛

(一)  原告の前記傷害は、前記入院加療後も次のような症状を呈している。

(1) 左足関節拘縮。背屈一〇五度、足底屈一三〇度、健側(右)屈六五度。

(2) 右下腿中、下方三分の一より足背にわたりしびれ感が残つている。

(3) 左下腿は下方三分の一にて外側に突出彎曲してしまつている。

(4) 下肢は右側が七九センチメートルであるのに対し、左側は七六センチメートルしかない。

(5) 歩行は極めて困難になり、三〇〇メートルも歩くと休憩をとらなければならない。

(6) 聴力が著しく失われ、聴力の損失は右側が四〇ないし六〇デシベル、左側が三五ないし四五デシベルを示している。

(7) 音声疲労に陥り、嗄れ声になつてしまつた。

(8) さらに頭重感、頭痛、頚部痛を訴え、眼痛の症状がある。

(二)  以上の後遺症のため、原告の健康は著しく損われ、日常の生活にも難渋している。原告は本件事故前においては編物教室を経営し、編物の教師として婦人達に編物を教えていたものであるが、本件事故による前記傷害のためその労働能力は著しく減退しており、従前同様に編物教師としての職を継続することは困難であつて、その精神的苦痛は筆舌に尽し難いものがある。

四、損害

(一)  休業による逸失利益

原告は、前述の如く、編物教室を経営して毎月少くとも二万五〇〇〇円の収入を得ていたが、四〇三日間の入院期間及び退院後三ケ月間は全く収入を失つたので、金四一万円の損害を受けた。

(二)  労働能力喪失による得べかりし利益の損失額

原告は、現在三八才(昭和六年八月三〇日生)であるが、今後二六年間は就労可能と認められるところ、本件事故のため原告は労働能力の少くとも四五パーセント(障害等級八級相当)を失つたものとみるのが相当である。

従つて、労働能力の喪失によつて原告が今後二六年間に失う利益は、これを単式ホフマン式計算方法により算出すれば、金一五二万六〇〇〇円となる。

(三)  治療関係の損害

治療代 一万九六五三円

入院中の附添費用 一六万〇五〇〇円

入院中の諸雑費 三万八八六〇円

交通費 一万〇七四〇円

見舞客に対する返礼費用 二万五一六五円

(四)  慰藉料

本件事故による前記傷害の程度、後遺症の重さ及び入院期間の長さ、原告の職業等に鑑み、原告の精神的苦痛は多大のものがあり、かつ一家の主婦として今後長期間にわたりその責務を全うできない点を考慮すれば、慰藉料として少くとも金二五〇万円を受けるのが相当である。

(五)  単車の破損による損害

原告は、その運転する原動機付自転車を本件事故のため破損し、その修理代として一二〇〇円の損害を受けた。

(六)  弁護士費用

本件損害について、原告は被告と交渉したが、被告に誠意なく、やむなく本訴におよんだものであるところ、前記傷害、後遺症に苦しんでいること、及び女性の身であることから到底自らその権利を行使することができず、ここに本件の解決時には二〇万円を原告訴訟代理人に支払うことを約し、又すでに着手金として一〇万円を支払ずみである。

(七)  原告は、右損害合計金五一五万四〇三六円のうち自動車損害賠償保険から保険金一一一万三四五一円を受領しているので、差引金三八七万八六六七円の損害賠償を被告から受ける権利があるものというべきである。

五、よつて原告は被告に対し右金三八七万八六六七円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和四四年六月四日から右支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三、請求原因に対する被告の答弁ならびに抗弁

一、第一項のうち、訴外中原が被告に雇傭され、自動車運転業務に従事していたこと、及び原告主張の交通事故の発生したことは認める。訴外中原に過失のあることは否認する。その余は不知。

第二項のうち被告が被告所有にかかる右中原運転の自動車の運行供用者であることは認める。

第三項は不知。

第四項は争う。

二、(一) 本件事故については原告に重大な過失があつた。すなわち本件事故発生現場は、国道二二一号線と高城から万ケ塚へ通ずる道路との十字路交差点であつて、原告は高城方面から右交差点へ進入し、訴外中原は二二一号線を都城方面から右交差点に進入したものであるところ、原告の進入経路である高城方面からの同交差点進入口は、一時停止の標識「止れ」によつて、一旦停止し、左右の交通の安全を確認した上で、同交差点へ進入すべく交通整理が行われていた。そして右中原が右交差点にさしかかつた際、普通自動車が二二一号線を都城方面へ向けて同交差点を通過したばかりであつた。かかる場合原告としては、交差点進入前に、一時停車して左右の交通の安全を確かめ、特に右普通自動車の陰になつて見透しの悪い、原告からみて左方向(右中原の車の進行して来る方向)の安全を十分確かめてから二二一号線を横切るべき注意義務があるのに、これを怠り、右普通自動車の後方から突然二二一号線に飛び出してきて、右中原の運転する車に自ら衝突したものであつて、中原にとつてみれば、本件事故は不可抗力によるものと言わざるを得ない。

(二) 被告及び右中原は、自動車の運行に関し十分な注意を払つていた。

(三) 本件被告保有自動車には、構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた。

第四、抗弁に対する原告の答弁

すべて否認する。

第五、〔証拠関係略〕

理由

一、(一) 昭和四二年一一月一八日午後五時四〇分ごろ都城市上水流町一六五四番地先の交差点において、都城市松之元方面(南)から志和池方面(北)に向けて進行していた訴外中原運転にかかる被告所有軽四輪貨物自動車(以下被告車という)と、同交差点を東から西方に向けて進行してきた原告運転にかかる原動機付自転車(以下原告車という)とが衝突したことは当事者間に争いがない。

(二) 〔証拠略〕によれば、原告は本件事故により左下腿粉砕開放骨折、左腓骨神経痳痺、外傷性頚性頭痛症候群、頭部外傷後脳症等の傷害を受け、事故当日の昭和四二年一一月一八日から同四三年一二月二五日までの間入院治療を受けたが、現在なお週一回の割合で右外傷性頚性頭痛症候群、頭部外傷後脳症について通院治療をしていること、現在原告には、右後遺症として左足関節拘縮があり(背屈一〇五度、足底屈一三〇度)、右下腿中、下方三分の一から足背にかけてしびれ感が残つており、左下腿は下方三分の一にて外方に突出彎曲し、下肢は右足が七九センチメートルであるのに対し、左足は七六センチメートルしかなく、歩行は困難となり、三〇〇メートルも歩くと休憩が必要な状態であり、聴力も著しく損われ(右耳四〇ないし六〇db、左耳三五ないし四五db)、嗄れ声となつて音声疲労があり、さらに頭重感、頭痛、眼痛、頚部痛等の症状があることが肯認でき、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

二、(一) 被告が被告車の所有者であり、右車を自己のため運行の用に供していたものであること、訴外中原が被告に自動車運転手として雇傭され、本件事故が右業務執行中に生起したものであることは当事者間に争いがない。

(二) 被告は、訴外中原には過失がなかつたと主張する。

〔証拠略〕によれば(但し原告本人供述中後記措信しない部分を除く)、本件事故現場は、南北に走る国道二二一号線(幅員六・四米)(以下国道という)と、東西に走る宮崎県北諸県郡高城町方面から谷頭方面に通ずる道路(幅員六・二米)(以下東西線という)が交差する交通整理の行われていない十字路交差点であり、原告車は右東西線を東から西に、被告車は右国道を南から北に向つて各進行してきたものであること

右交差点の東南角には、家屋があつて右道路双方への見透しが妨げられており、東西線の交差点への両進入口には、それぞれ一時停止の標識があつたこと

国道の車両交通量はかなり多く、原告車の前方には、東西線から国道に左折南進しようとして、交差点内部に入り、すでにその頭部をやや左方(南方)に向けて、国道を走行する車の流れの途絶えるのを待つため一時停止している普通貨物自動車(以下先行車という)があり、原告車も右一時停止している先行車の右後方で同じく国道を通行する車を待つため一時停止したこと

やがて右先行車が発進左折をはじめたので、原告は国道の車の流れが途絶えたものと考え、右方(北)から国道上を南進してくる車のないことのみを確かめた上、右交差点を直進しようとして発進し、右交差点中央よりやや西方の地点まで進行した際、国道上を北進してきた被告車の前部と原告車の左側面付近が衝突したこと

一方訴外中原は、時速三五キロメートル位の速度で被告車を運転して右交差点に入つたのであるが、その際、東西線から国道に左折南進するため右交差点を通過しつつあつた前記先行車を認め、その車の背後の交通状況については、車の陰になりよく確かめ得ない状態であつたにも拘らず、漫然そのままの速度で右交差点内を直進したところ、右先行車の直後から進出してきた原告車を二・八メートル位の近距離になつてはじめて発見し、急制動をかけたがおよばず右衝突するに至つたことを肯認し得る。前掲原告本人供述中右認定に反する部分はたやすく措信できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

右認定事実関係によれば、訴外中原としては前記先行車および交差点東南角の家屋のため、東西線の交通状況、ことに先行車の背後の状況がよく確認できない状態にあつたのであるから、直ちに停車できる程度の速度で進行するか、又場合によつては一時停車して東西線の交通状況を確認した上で発進しなければならない義務があつたというべきであり、同訴外人が右義務を遵守しなかつたことは前記判示のとおりである以上、同訴外人に右注意義務懈怠の過失があることが明らかである。

従つて被告の免責の抗弁は、その余の点につき判断するまでもなく失当である。

そうすると、被告は人損については自賠法三条により、物損については訴外中原の使用者として民法七一五条により原告の受けた損害を賠償すべき責任があるといわねばならない。

三、そこで以下損害額について検討する。

(一)  休業による逸失利益

〔証拠略〕によれば、原告は本件事故当時自宅において編物教室を経営し、一ケ月当り少くとも金二万五〇〇〇円位の収入を得ていたのであるが、本件受傷により昭和四二年一一月一八日以降翌四三年一二月二五日までの間丸田病院、柳田外科病院に治療のため入院するのやむなきに至り、右退院後も当分の間静養し、ようやく昭和四四年二月から右編物教室を再開し得たことを認めるに足り、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、原告は本件受傷により右編物教室を休業した一四ケ月の間、一ケ月当り金二万五〇〇〇円の得べかりし利益を失つたということができるので、その損害は金三五万円となる。

(二)  労働能力喪失による得べかりし利益

〔証拠略〕によれば、原告の経営する編物教室は、前記再開後は事故前に比べ生徒数が三分の一位に減少し、そのため原告の収入も以前に比し三分の一位になつたこと、又原告は本件事故による受傷のため前記一、(二)判示のとおりの後遺症があり、編物教授にも相当の支障をきたしていることはこれを認めることができる。

しかしながら、生徒数の減少は一年間以上も入院治療のため教室を閉鎖したこともその一因と思われる上、右後遺症についても今後日時の経過等により一部分は漸次軽快し、又教授に対する支障も教授技術により或る程度はこれを補うこともできると考えられるので、今後共に右認定の状態が続くと認めることはできない。

右事情を考えあわせると、原告は右編物教室再開後一〇年間は前記判示にかかる本件事故当時の収入のうち三〇パーセントを本件事故による受傷のため失うものと認めるのが相当である。

原告は、向後二六年間四五パーセントの収入を失うと主張するが、労働基準監督局長通牒の定める労働能力喪失率を本件に直ちに適用することは右通牒の性質からして疑問があり、他に右原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

そこで原告の受けた右損害の現在価値をホフマン式計算法(年単位)により計算すれば、金七九万四四五八円となる。

99.996×7.9449=794,458円(円以下切捨)

(三)  治療代

〔証拠略〕によれば、原告が本件受傷の治療代として合計金一万九六五三円を支出したことを肯認することができる。

(四)  付添看護費用

〔証拠略〕によれば、原告は本件事故による負傷のため前記入院期間のうち昭和四二年一一月一八日から同四三年二月一五日までの九〇日間、同年七月五日から同月一〇日まで六日間、同年一二月一二日から同月一六日までの五日間付添を必要とし、右全期間中原告の夫である岸良勝が、又昭和四二年一一月一八日から同年一二月二日までの一五日間は原告の母親も共に付添看護をしたことが認められる。原告は右費用を現実に支出したわけではないが、なおこれは本件事故による損害とみるべきであり、職業付添人の付添料が少くとも一日金一〇〇〇円はすることは当裁判所に顕著な事実であるから、右損害額は一日金一〇〇〇円をもつて相当と認める。

そうすると右損害は金一一万六〇〇〇円となる。

(五)  入院中の雑費

(1)  栄養食代

〔証拠略〕によれば、原告は入院中卵、ミルク等を購入するため合計金一万〇二六〇円の支出をしたことが認められるなお〔証拠略〕と同一内容のものと認められるので、右証拠をもつて原告の支出した費用を認定することはできない。

(2)  付添看護人の食事代

〔証拠略〕によれば、原告は前記入院中付添看護の必要があり、その食事代として合計二四二〇円を支出したことが認められる。

ところで〔証拠略〕にも右付添人に対する食事代の支出が含まれていることはこれを肯認しうるのであるが、右の中には外に見舞客に対する接待用の食事代も含まれているというのであり、その割合も明確でないので、右証拠をもつて右費用認定の資料とはなし得ない。

又〔証拠略〕については、〔証拠略〕によれば、いずれも入院見舞客に対する接待費および原告の子供に対する食事代として支出した費用であるというのである(〔証拠略〕は付添人の食事代であるというが、昭和四三年一二月二三日当時付添看護を必要とした事実は認められない)。しかもその内容を検討してみると、右支出は全てめし、うどん、ラーメン等いわゆる食事代というべきものであり、見舞客に対する通常の接待の域をこえたものと言わざるを得ないので、右費用支出をもつて本件事故と相当因果関係の範囲内にある損害とみることはできない。(ちなみに〔証拠略〕に至つては、原告が退院した後の支出分と推定される)

(3)  暖房具、氷代

〔証拠略〕によれば、原告は右入院中、氷代、暖房費として合計金六九一〇円を支出するのやむなきに至つたことを肯認するに足りる。

(4)  結局右入院雑費合計金一万九五九〇円が本件事故に基く原告の受けた損害というべきである。

(六)  交通費

〔証拠略〕によれば、原告は本件事故による負傷のため、交通費として合計金一万〇七四〇円を支出したことを肯認し得る。

(七)  退院謝礼代等

原告は見舞客に対する返礼費用等として合計金二万五一六五円を支出し、これを本件事故による損害であると主張する。〔証拠略〕によれば、原告は入院中見舞をうけた謝礼として退院後右見舞客に対し礼状、菓子折、風呂敷等を、又入院中看護婦に対する謝礼として下着類等を贈るため右金額を支出したことを認め得る。しかしながら、右の如き謝礼は厚意に対する感謝のしるしとしてなされるものであり、右支出をもつて本件事故に基く損害とするのは、加害者に負担させるべき相当の範囲をこえているものというべく、右費用を損害と認めることはできない。

(八)  車の修理代

〔証拠略〕によれば、原告は本件事故により原告の運転していた原動機付自転車を破損し、その修理代として金一二〇〇円を支出したことが認められる。

(九)  ところで右(一)ないし(八)の損害合計は金一三一万一六四一円となるところ、本件事故についての前記認定にかかる事実関係に徴すれば、原告も又その進行方向に向つて左方(南)の国道上を北進してくる車の有無をたしかめた上、発進すべきであつたのに、これを怠つた点に過失があつたものというべく、原告の右過失は本件事故の賠償額の算定につき斟酌さるべきであり、双方の過失の割合は一対一であると認めるのが相当である。

そうすると、右原告の財産上の損害のうち被告に負担させるべき金額はその二分の一である金六五万五八二〇円となる。

(一〇)  慰藉料

前記認定にかかる本件事故の態様、傷害の程度、入院治療の期間、後遺症の程度、双方の過失の態様その他本件にあらわれた一切の事情を考慮し、原告の精神的苦痛に対する慰藉料としては金一五〇万円をもつて相当と認める。

(一一)  損害の填補

原告が、自賠責保険からすでに金一一一万三四五一円の支払を受け、これを右損害に充当したことは、原告の自認するところであり、右金額を原告の以上の損害額合計金二一五万五八二〇円から控除するとその残金は金一〇四万二三六九円となる。

(一二)  弁護士費用

原告が本件事故による損害賠償を請求するため昭和四四年五月二〇日弁護士鍬田萬喜雄に訴訟代理を委任し、同人が原告の訴訟代理人として同年五月二七日当裁判所に本件訴訟を提起し、以来本件訴訟を追行してきたことは本件記録上明らかであり、又原告本人尋問の結果によれば、原告は同弁護士に訴訟委任をするに当り、同人との間で着手金七万円、謝金として勝訴額の一割を同弁護士に支払う旨約し、着手金七万円を直ちに支払つたことを認めることができる。原告が本件訴訟を提起するにつき弁護士に依頼したことは、権利の伸張に必要已むを得ない措置であつたと認められるから、これによる支出は本件事故による損害というべきところ、その額は当裁判所に顕著な宮崎県弁護士会の報酬規定の内容、本件事案の難易、認容すべき損害賠償額等諸般の事情を考慮すれば、右弁護士費用中被告において負担すべき額は、着手金、謝金あわせて金一五万円をもつて相当と認める。

四、よつて原告の被告に対する本訴請求は、右合計金一一九万二三六九円およびこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和四四年六月四日以降支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるので正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 福富昌昭)

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